最近の徳川美術館の夏の展示では、残念ながらいわゆる図録が刊行されないことが多い。
今年もまた同じ状況であるのだが、今回はなんと、連動する形の書籍(ムック)「歴史REAL 天下人の城」がタイミングを合わせて、7月12日に洋泉社から全国一斉に発売された。
はたして、このムック版「天下人の城」は、徳川美術館「天下人の城」の図録の代わりになりうるのか、調べてみた。
ちなみに、昨年2016年夏の特別展「信長・秀吉・家康」では、図録の代わりに8ページオールカラーの小冊子が刊行、ミュージアムショップで販売された。そこに載っている出展品の写真は計24点であった。
「歴史リアル 天下人の城」をさっそくひもといてみよう。
オールカラー112ページ!900円!
基本データは、オールカラー112ページ、価格は900円(税別)である。
まず巻頭の特集「リアルニュース」は
「江戸城の最古級絵図を発見!家康が築いた城は戦国の城の集大成だった!」と題して
千田嘉博先生が寄稿している。
(1)「江戸始図」(*以下、洋数字は天下人の城展に出展されるもの)
の写真とともに、現在の天守台の場所なども記載。さらに、先日の新聞報道で発表された、
(A)天守の復元イラスト(富永商太絵、千田嘉博監修、以下アルファベットはこの2人によるイラスト、一部が天下人の城展の会場を飾る)も大きくカラーで載る。
また、巻頭特別付録「日本城郭協会認定 続日本100名城」完全ガイドも実にタイムリーな企画である。
10ページからは「徳川美術館が誇る戦国の至宝」として、原史彦学芸員が紹介する。
「天下人の城」展にも展示される、
(2)安土城内にあったことが確実に記録から確認できるただ2つの「松花」と「金花」の茶壺のペア
(3)明智光秀が本能寺の変後に安土城から接収したと伝わる国宝の太刀「津田遠江長光」
(4)小牧長久手の戦いのきっかけになった岡田重孝惨殺事件につかわれた脇指「鯰尾藤四郎」
のほか、今回は展示されない、家康着用の熊毛の具足、国宝の短刀庖丁正宗や大名物の千鳥の香炉、千利休が作った竹の茶杓「泪」などの徳川美術館の至宝が惜しみなく掲載されてる。
16ページの目次には
(5)安土城出土の金箔瓦
千田先生の力の入った寄稿
18ページには、特別寄稿「天下人の城革命とはなにか?」として千田先生が執筆。
などと、城ブームを牽引してきたからこその厳しくも暖かい、新たな城研究への地平を切り開く寄稿と言っても過言ではない。
このムックは、既存の「お城本」を超えたことを期待させる。
36ページでは
(6)築城図屏風(名古屋市博物館蔵)が5ページにわたり、詳細にパーツごとに読み解かれていく。
PART1 信長と城
41ページからのPART1「信長と城」は、原氏と「探訪東海百城」を担当する読売新聞記者岡本公樹氏が執筆。
・信長の城づくり(42-43ページ)
(7)信長がうまれた勝幡城の古城絵図
(8)岐阜城から出土した刀剣
(B)勝幡城復元イラスト
(C)信秀・信長の居城の変遷地図
(D)小牧山城主郭部の推定復元図
(E)小牧山城下の復元
・信長の居城(44-45ページ)
(9)安土城跡出土金箔瓦
(10)復元安土城金シャチ
(11)信長を「黒ネズミ」と罵倒した金西寺所蔵の文書
(F)安土城天守復元図
(G)御白洲に面したテラスの構造復元図
・信長の攻城戦(46-47ページ)
(12)今川義元木像
(13)尾州知多郡大高之内鷲津丸根古城図
(H)桶狭間にいたる信長のルート図
48ページからは原氏による解説とともに4ページにわたり詳報されているのが
(14)長篠合戦図屏風(徳川美術館蔵)だ。
・信長の一族の城(52ー53ページ)
(15)織田信雄肖像
(16)清須城金箔瓦
(I)信長の12の支城(富永商太絵、千田嘉博監修)
56ページからの「お城発掘調査最前線」では、応援団メンバーでもある小牧市教育委員会の小野友記子氏が小牧山城を紹介する。
58ページからの「金箔瓦」特集では
(17)清須城跡出土 木瓜紋瓦
(18)大坂城出土金箔瓦
PART2 秀吉と城
63ページからの「PART2 秀吉と城」では、大阪城天守閣主任学芸員跡部信氏、千田先生、岡本記者の3人が執筆。
・秀吉の居城(64-65ページ)
(19)羽柴秀吉大坂築城掟書
(20)秀吉所用の純金天目
(J)秀吉時代の大坂城天守
(K)本丸堀に架かる極楽橋
・秀吉の城づくり(66-67ページ)
(21)聚楽第図
(22)徳川家康伏見城普請中法度
(L)聚楽第の復元建物
(M)伏見城から望む巨椋池
・秀吉の攻城戦(68-69ページ)
(23)春日井郡小牧村古城絵図
(N)小牧長久手 両軍の付城と進軍ルート
(O)小田原城から石垣山城を望む
70ページからは原氏が4ページにわたり
(24)長久手合戦図屏風(徳川美術館蔵)を詳説する。
80ページからは、千田先生による特別研究「築城名人・加藤清正と熊本城」が載る。
(25)虎頭蓋骨
(26)名古屋城天守台の銘文
PART3 家康の城
88ページからの「PART3 家康の城」は千田先生と原氏が担当。
・家康の城づくり
(P)家康時代の浜松城主郭
(Q)古宮城復元イラスト
・家康の一門の城(92ー93ページ)
(27)徳川義直画像
(28)名古屋城郭図屏風
(29)徳川秀忠尾張領知状
94ページからは「古写真で見る御三家」
(30)徳川慶勝が撮影した天守と二之丸御殿
(31)大坂夏の陣図模本
(32)名古屋城普請丁場割之図
このように出展品で32点
富永商太絵、千田嘉博監修の復元図やイラストが17点
掲載されている。
これらに、展示解説をこえる詳細な説明やほかの図版・写真も掲載されていることから、特別展「天下人の城」を楽しむ上では、当ブログの出展品解説とともに必読と言えるのではないだろうか。
当ムックは、全国の書店やコンビニのほか、徳川美術館のミュージアムショップでも販売される。
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